台所に立って、桃を煮る。ただそれだけのことが、どうしてこんなに特別なことのように思えるのだろう。
くどうれいんのエッセイ集『桃を煮るひと』を読み終えて、しばらくそのことを考えた。料理でも、手紙でも、散歩でも——誰かのために、あるいは自分のために、何かを丁寧にする時間。その重さと柔らかさを、この本は静かにすくい取っている。
くどうれいんとはどんな作家か
くどうれいんは1994年生まれ、岩手・盛岡を拠点に活動する詩人・小説家・エッセイスト。短歌・詩・小説・エッセイと、ジャンルの境界を自由に横断しながら、「今この瞬間の手触り」を言葉に刻み続けている書き手だ。
小説『氷柱の声』で第64回野間文芸新人賞を受賞。エッセイ集『うたうおばけ』では、日常の中の小さなおかしさ・悲しさ・愛しさを鮮やかに切り取り、幅広い世代の読者に愛されている。くどうれいんの文章に触れると、自分の日常がちょっとだけ解像度を上げて見えてくる——そういう特別な感覚がある。
『桃を煮るひと』——日常という名の宝物
本書は、くどうれいんが日々の生活の中で出会った「小さいけれど大切なこと」を丁寧に言葉にしたエッセイ集。ミシマ社より刊行された。
食べること、作ること、誰かと笑うこと、ひとりで眠ること——当たり前すぎて素通りしてしまいそうな日常の断片を、くどうれいんの文章はすくい取って光に当てる。読み終えたあと、なぜか自分の台所が、自分の食卓が、少しだけ違って見えてくる。そういう本だ。
タイトルにある「桃を煮る」という行為も、ただの料理ではない。誰かのために何かを作る、その行為に宿る愛情と時間——本書はそういうものへの、ゆっくりとした、やさしい眼差しで満ちている。「特別なことなんて何も起きていない」はずの日の記録が、なぜかこんなに美しいのか。読みながら何度もそう思った。
くどうれいんの言葉は、飾らない。でも鋭い。日常の表面をするりとなで、その奥にある「本当のこと」をすっと差し出してくる。読者は気づけば自分の日常に引き戻され、「あ、私もそういうことがあった」と思う。共鳴するのに説明がいらない——それが、この作家の文章の力だと思う。
ミシマ社という出版社について
本書を刊行したミシマ社は、京都・東京を拠点とする独立系出版社。「一冊入魂」を掲げ、売れ筋よりも「本当に残したい本」を丁寧に作り続けている。のこのこ書店でも、ミシマ社の本を積極的に仕入れている理由のひとつが、この姿勢だ。
同じミシマ社の本として、松村圭一郎『小さき者たちの』や中島岳志『思いがけず利他』なども入荷している。ミシマ社の本が好きな方は、ぜひ棚全体を見渡してほしい。
こんな人に読んでほしい
- 日々の忙しさの中で、ふと「生活を味わいたい」と感じている人
- 食べること・作ることが好きな人、台所に立つ時間が好きな人
- くどうれいんの詩や小説を読んで、もっと彼女の言葉に触れたいと思っている人
- 誰かへのプレゼントに「読後感がやさしい本」を探している人
- 「きれいな文章」ではなく「本当の言葉」が読みたい人
のこのこ書店より
この本を棚に並べたとき、「これは絶対に手に取ってほしい」と思った。くどうれいんの文章は、読んだあとに何かが残る。情報ではなく、感触が。知識ではなく、温度が。
日常の中でちょっと立ち止まりたいとき、疲れているとき、誰かとの食卓が恋しいとき——そんなときに開いてほしい一冊。のこのこ書店が自信を持っておすすめします。
著者:くどうれいん 出版社:ミシマ社 価格:¥1,760(税込)
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