直木賞の余韻とともに読みたい、今いちばん好きなエッセイ5冊

7月15日、今年の直木賞が発表された。

受賞のニュースが流れるたびに、本屋の棚が少し動く。「あの本、うちにあったっけ」と確認して、問い合わせを待って、少しそわそわする。それが書店にとっての、良い意味での忙しさだ。

でも私が一番好きな時間は、その興奮が少し落ち着いたあとにある。受賞作を読み終えて、余韻の中でぼんやりしているとき——次の一冊をどこへ向けようか迷う、あの静かな時間。

そういうときに、エッセイを読む。

小説の中にいた時間が長ければ長いほど、誰かの「素の言葉」が読みたくなる。物語のない、でも確かに誰かが生きた時間の断片。フィクションの余熱を持ったまま、現実の誰かの日常に触れる——それがエッセイの引力だと思う。

今回は、直木賞のシーズンに当店が自信を持っておすすめする、今いちばん好きなエッセイ5冊を紹介したい。すべて現在店頭在庫あり。手に取れるうちにどうぞ。


1. くどうれいん「桃を煮るひと」(ミシマ社・¥1,760)

まず、この本から始めたい。

くどうれいんの名前は、もはや説明不要だろう。詩人として、小説家として、SNSの飾らない言葉で——彼女は何年もかけて、じわじわと読者の心に入ってきた作家だ。直木賞候補の経験もあり、名前を知っている方も多いはずだ。

表題作「桃を煮るひと」は、祖母が桃を煮る場面から始まる。ただ、それだけのことが書いてある。のに、読み終えると、なぜかこちらの目が少し潤んでいる。

くどうれいんが日常を書くとき、彼女の言葉は小さなものにきちんと向き合う。見過ごしてしまいそうな瞬間を、丁寧に名前のある場所へ連れていく。「大きな物語」を読み終えたあとに、この「小さな愛おしさ」の集積が、不思議なほど胸に響く。

直木賞の余韻の中で、まず手に取ってほしい一冊だ。出版はミシマ社。独立系出版社が誠実に作った、誠実な本。

在庫:2冊 / ¥1,760(税込)

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2. せきしろ「そんな言葉があることを忘れていた」(¥2,530)

せきしろといえば、又吉直樹との共著『カキフライが無いなら来なかった』シリーズで知られる詩人・自由律俳句作家だ。

この一冊は、日常のあらゆる場面で「あ、そうか、そういう言葉があったな」という感覚を次々と呼び起こす。「忘れていた言葉」とは、懐かしい語彙のことではない。自分の中にはあったはずなのに、いつの間にか使わなくなっていた感情の名前のことだ。

せきしろの文章は軽い。でもその軽さは手を抜いているのではなく、余計なものを全部削ぎ落とした結果の軽さだ。重厚な物語の読後に、こういう「素材の味」のような文章が読みたくなることがある。

ゆっくり、何度でも開いて読みたい本。値段が高めに感じるかもしれないが、開いた瞬間に「これは手元に置くべき本だ」とわかる。

在庫:1冊 / ¥2,530(税込)

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3. 伊藤亜和「存在の耐えられない愛おしさ」(¥1,650)

タイトルからして、すでに何かが始まっている。

「耐えられない愛おしさ」——この言葉が指すものを、著者は日常の細部から掘り起こす。哲学的な問いと、身体的な感覚が混ざり合うエッセイは、読んでいるうちに「自分はどうだろう」という問いを静かに持ち帰らせる。

伊藤亜和は若い書き手だが、その言葉の密度は侮れない。大きな問いを立てながら、答えを急がない。「わからないまま言葉を続けること」の誠実さが、この本には宿っている。

直木賞の受賞作が描いた人間の業や感情を、もっと違う角度から眺めたいとき——このエッセイがその視点を与えてくれる。薄くて軽い一冊なのに、読み終えると何かが変わっている。

在庫:1冊 / ¥1,650(税込)

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4. 椛沢知世「あおむけの踊り場であおむけ」(書肆侃侃房・¥1,980)

書肆侃侃房は、詩歌や現代文学を中心に丁寧な本づくりで知られる福岡の独立系出版社だ。この出版社が選ぶ書き手には、「少し変わった場所から言葉を差し出してくる」人が多い。

椛沢知世もそういう書き手だ。「あおむけの踊り場」という言葉が示す通り、この本は上でも下でもない場所で立ち止まっている。上昇も下降もしていないが、ちゃんとそこにある。それだけで、なぜかほっとする。

思考の迷宮と評されることが多い文体だが、読み進めるうちに「迷子になること」の心地よさを知る。直木賞で一つの物語の終わりを迎えたあと、次の「道に迷う時間」として選んでほしい一冊。大手では出てこないタイプの本。これが書肆侃侃房の棚に並んでいることが、独立系書店の存在理由だと思う。

在庫:1冊のみ / ¥1,980(税込)

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5. 田中有芽子「私は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない」(¥1,980)

まず、タイトルで笑ってしまう。日本狼アレルギーって、なんだ。

でも読み始めると、この笑いの底に真剣さが滲んでいることに気づく。「もう分からない」と言い続けることの、これほど誠実なあり方があるだろうか。自分への問いを笑いに変えながら、決して諦めない。そのトーンが全編に貫かれている。

現代を生きる若い書き手たちの言葉が、今この時代にどれほどリアルに機能しているか——この一冊はその証明だと思う。直木賞の緊張感が和らいだころに、くすっと笑いながら読んでほしい。読み終えたら、少し背筋が伸びているかもしれない。

在庫:1冊のみ / ¥1,980(税込)

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この5冊、すべて当店にあります

直木賞のシーズンは、本屋が一番熱くなる時期でもある。受賞作を読みたい方はもちろん、「話題になっているのは知っているけど、今は少しちがうものが読みたい」という方にも、この棚を見てほしい。

大きな物語の余韻の中で、誰かの日常の言葉を受け取る——そういう読書の時間を、この5冊が作ってくれると思う。在庫数に限りがあります。気になる方はお早めにどうぞ。


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