詐欺を未然に防いだコンビニは、とてもあたたかかった。

今日もいちにち、のこのこと

ただ、春になったから暖かいのではない。
そうではなくて、どこかほっこりとする話。

先日、詐欺を未然に防いだ。
もちろん、僕だけではなく店員さん、別のお客さんも含めて、みんなで防いだ。
この世に、詐欺なんてなくなればいいのになあと、心の底から思った。

その日は、食材やら日用品やらを買い出しに出ていた。
近所にある、安い精肉店で鶏肉と、よくわからない刻まれた安いハムを買った。
ハムは、マカロニサラダにしてやろうと思う。
それから洗濯物の消臭ビーズ的なものと、我が家では欠かすことのできない牛乳石けんを薬局で購入。
僕は、頭からつま先まで、牛乳石けんで洗っている。
髪の毛はギシギシになるものの、短く切られているそれは、別にギシギシでも問題が無い。

最後。コンビニで煙草を買って帰ろうと思った。
基本的に一人で仕事をしているので、ニコチンが友達。切れかけるタイミングで必ず新しい煙草を購入しておかないと、貧乏揺すりで築50年位の家が崩壊してしまうから。

警察署の向かいにデイリーヤマザキがあり、手作りのおにぎりやら惣菜、その店で焼いているパンが売っているデイリー。今やあまり見ることのないデイリー。なぜか家の近所には2件、連続であるデイリー。

デイリーで煙草を買おうと店舗に入る。

店員さんが首をかしげながら、レジに向かって歩いて行く。
後ろには、電話をしているおじいちゃんを携えながら。

手には、Appleのプリペイドカードを持っている。
煙草が買いたいだけの僕の前に、そのおじいちゃんがいる。
店員さんはずっと首をかしげている。
おじいちゃんの電話の声が聞こえてくる。

「今?今はそのカードを買いにきてるんよ!パソコンの前にはおらへんよ!」
と話している。
「パソコンの前に行けって?買わなくていいのか?3万円分買えばいいのか?パソコンの前にはおらへんよ!」
と、どうやらいまいち会話がかみ合っていないようで、おじいさんはイライラしてきている。
店員さんは、首をかしげ、困ったような目でこちらを見ている。

図体に似合わず、僕は基本的にノミより小さい心臓をしているので、怒られたらいやだな、おじいさん、イライラしているから「詐欺じゃない!」と言われたらいやだなと思った。
おじいさんの心配より、まず怒られたくないが先に来てしまった僕を、僕はきらいだ。

とはいえ、今は自分のことを好いているかどうかなんてどうでもいい。
この詐欺を、未然に防がなくてはいけないし、もし仮にキレられたら、別にそれはそれでいい。腹をくくり、声をかける。
「それ、多分詐欺ちゃいますかね?」
おじいさんは、びっくりしたようにこちらを見る。
店員さんは、よく言ってくれた、という表情でこちらを見る。

「知り合いに送るんですか?そうではないなら、詐欺の可能性高いですよ」
と、僕が伝えると
「そうなんですか?でも、パソコンでマイクロソフトから3万円払えって言われて」
とおじいさん。思ったより、普通に受け答えしてくれるじゃないか。これはとてもありがたい。冷静な話ができるのが、嬉しい。
「もし仮に支払うことになったら、こういったカードで払えって言われないので、多分詐欺ですよ、お電話よければ代わりましょうか?」
そう伝えると、おじいさんから携帯を渡された。
さて、詐欺師といよいよ対峙する。
「お電話代わりました。」
「mskfhぢhfjかsdlkさ」(日本語なんだけど、支離滅裂で何をいっているかわからない。
「とりあえず、こちらお支払いしませんので、よろしくお願いいたします。」
「それは困る。払わないといけない。どうするか。はやくパソコンの前にいけ」
「行けって命令されても。まだカードも買っていないのにパソコンの前にいっていいんですか?」
「カードを買え。そして今すぐパソコンの前にいけ」
「いやいや。すぐは無理です。というか一回警察に相談だけしてもいいですか?」
「警察にいっても良いぞ。警察署で電話かけてこい」
なんでこの詐欺師、挑発的なんだろうか。
すごい自信だな。
とはいえ、僕もそこまで時間があるわけではない。このまま問答を繰り返すのもなあ。
「今、警察で電話しています。警察官に電話を代わりますね」
脅しも込めて、そう伝えた。正確には警察署ではないけれども、目と鼻の先にあるくらいだからいいか。
次の瞬間、電話がブチッと途切れた。
ああ、やっぱり詐欺だったんだろうな。というか詐欺なのは間違いないだろうけれども。

「おじいさん、やっぱり詐欺でしたよ」
「ああ、本当ですか。ありがとうございます。」

そのとき、コンビニの店内はとても優しい空気が流れていた。
店員さん、他のお客さんも、「詐欺ですよ〜。未然に気がついて本当に良かった!」とみんなで言い合った。おじいさんはやはり、恥ずかしそうな顔をしながら、でも良かったと思っているような表情をしていた。
せっかくなので警察がすぐそこなので、警察に行ってくださいと伝えて、そしてコンビニを出る。
春の風がながれていた。

詐欺は、やっぱりだめ。ゼッタイ。当たり前だけど、だめ。