株式会社文藝春秋から4月23日に刊行された芦沢央さんの最新作『嘘と隣人』が、第173回直木三十五賞にノミネートされました。
“イヤミス”の旗手として高い評価を得ている芦沢さんにとって、本作は第164回『汚れた手をそこで拭かない』に続く2度目の候補入り。
現代社会に潜む倫理観のズレと、誰の隣にも潜む悪意をテーマにした連作短編集として注目を集めています。
「正しさ」は誰のものか。元刑事の“今”を描く静かな心理サスペンス
『嘘と隣人』の主人公は、定年退職後の元刑事・平良正太郎。
かつての捜査経験を胸に、平穏な老後を送るはずだった彼のもとに、ストーカー、痴漢冤罪、SNS中傷、技能実習制度など現代的な問題が次々と降りかかります。
正太郎は、捜査権限を持たぬまま、隣人や知人の抱える問題に向き合い、**人の心の奥にある“見えにくい悪意”**を見抜いていく。
読者は一話ごとに驚きの真相に出会いながら、誰かの罪をただ責めるのではなく、そこに至るまでの背景に思いを馳せることになります。
著者コメント:「過去の自分と、今の社会にどう向き合うかを描いた」
芦沢さんは本作について、以下のように語っています。
「“正しさ”が変わり続ける社会で、歳を重ねるほど倫理観のアップデートが難しくなると感じました。
過去に刑事として事件に向き合った人物が、今は一般人としてそれに直面したらどうなるのか──。
そう考えていくうちに、彼のリアルタイムの事件も描きたくなっていきました。」
この言葉からも、本作が単なるミステリーではなく、変化する社会と人間の適応、内省の物語でもあることが読み取れます。
『嘘と隣人』内容紹介(ストーリー概要)
元パートナーのストーキング
痴漢冤罪とマタハラ
技能実習制度と外国人差別
SNSを通じた脅迫や誹謗中傷
これらの誰にでも起こり得る身近な問題を題材に、元刑事・平良正太郎の視点から、人間関係の綻びが描かれていきます。
日常の裏に潜む違和感、そしてその裏にある真実──
本書はそれらを静かな筆致と、鮮やかな伏線回収で見事に描き切ります。
作品試し読みも公開中
第1話「かくれんぼ」、第2話「アイランドキッチン」の冒頭は文藝春秋公式サイトで無料公開中。
静かな導入から一気に惹き込まれる、巧みな物語構成と心理描写をぜひ体感してみてください。
▼書誌情報・試し読みリンク:https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163919713
著者プロフィール:芦沢 央(あしざわ・よう)
1984年、東京生まれ。2012年『罪の余白』でデビュー。
以降、『許されようとは思いません』『火のないところに煙は』『魂婚心中』など話題作を多数発表。
2023年には『夜の道標』で日本推理作家協会賞を受賞。
社会問題を取り入れながらも、人間の心の綾を巧みに描く作風に定評があり、イヤミス(読後にイヤな気持ちになるミステリー)の名手として知られる。
書籍情報
書名:嘘と隣人
著者:芦沢 央
判型:四六判 並製カバー装
定価:1,760円(税込)
ISBN:978-4-16-391971-3
発売日:2025年4月23日
出版社:文藝春秋
書誌URL:https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163919713
まとめ:日常の裏側にある“嘘”に迫る、全6編の心理サスペンス
『嘘と隣人』は、隣人というごく近しい存在が抱える秘密や悪意に、読者自身も目を背けられなくなる一冊です。
第173回直木賞の行方とともに、本書の行間に潜む“真実”にもぜひ注目してみてください。