書名:犬のうんちとわかりあう
著者:三好愛
出版社:ミシマ社
発売日:2026年6月15日(168ページ)
「うんち」というタイトルに、正直ひるんだ。でも、それが狙いだった
書店員として、本が棚に並ぶ前から気になっていた一冊がある。三好愛さんのエッセイ集『犬のうんちとわかりあう』だ。正直に言う。タイトルを見て、一瞬「これ、どの棚に置くんだろう」と悩んだ。ペット本?文芸エッセイ?ユーモア本?
でも、手に取って数ページ読んだとき、そんな分類の迷いは吹き飛んだ。これは「距離」についての本だ。人と犬の距離、自分と日常の距離、そして意味のつかめないものとどう向き合うかという、誰にでも刺さるテーマを静かに問いかけてくる一冊だった。ミシマ社から出る本らしく、文章に力みがなく、でも芯が通っている。「犬のうんちとわかりあう 感想」を書こうとして、気づいたら自分の話を少しずつ思い出していた。
三好愛 著 / ミシマ社 / 2026年6月
犬のうんちが教える、もっとも正直な関係性
犬を飼ったことがある人なら、うんちの世話が「愛情の試金石」であることを知っている。散歩のたびに袋を手に構え、拾い、処理する。誰にも褒めてもらえないが、欠かせない行為だ。三好愛さんはここに着目する。「うんちは、寡黙で実直に、世界を伝えてくれています」という言葉が本書の核心だ。
食事の量、体調の変化、ストレスの有無——犬は言葉を話さないが、うんちはすべてを正直に語る。飼い主はそれを読もうとする。その真剣さが、犬と人間の関係をどこまでも深くする。本書が描くのは、可愛い瞬間だけじゃない犬との日常。だからこそリアルで、だからこそ温かい。「わかりあう」とは、きれいな部分だけを見せ合うことではない。一番正直な部分を受け止めようとすることだ——そう気づかせてくれるのが、この本の底力だ。
イラストレーター・三好愛だから見える、視点の驚き
三好愛さんは、装画や挿絵の仕事で広く知られるイラストレーターだ。そのキャリアから生まれる視点は独特で、この本でも随所に光る。絵と言葉が「別々の道をたどって交差する」構造は、読んでいてそれ自体が体験になる。ある段落では言葉が先行し、ある見開きでは絵が「そういうことか」と答えを出す。
その繰り返しの中で、読者は知らないうちに「自分はこの対象とどのくらいの距離にいるのか」を問い直されている。犬のうんちを起点に、子ども・他人・もの・自分自身との距離を次々と照らし出していく構成は、三好さんにしか書けない視点だと感じた。「文章家のエッセイ」とも「イラスト作家の絵本」とも違う、まったく独自の読書体験がここにある。
読み終えると、散歩の景色が変わっていた
この本を読み終えた翌日、近所で犬を連れた人を見かけた。飼い主が袋を手に屈んだ瞬間、思わず目が止まった。ああ、この人もわかりあおうとしているんだ——と。大げさかもしれないが、それくらい「読後に日常の見え方が変わる」本だった。
本書のエッセイは、「犬のうんちとわかりあう」というテーマを軸にしながら、日常のなかの「伝わるはずのないもの」「でも伝えようとしてしまうこと」への愛着を丁寧に拾い集めている。読み終えた後、誰かのそばにいることが少し違う意味を持ちはじめる。そういう本だ。タイトルの奇妙さは、読み終えるころにはすっかり必然に変わっている。
こんな人に読んでほしい
- 犬を飼っている、またはかつて飼っていた人
- 三好愛さんのイラストが好きで、初めて文章作品に触れたい人
- 「なんとなく伝わらない」と感じる人間関係の中にいる人
- 日常の小さな出来事を、もう少し深く味わいたいとき
- ミシマ社らしい、静かで芯のあるエッセイが好きな人
タイトルで思わず笑えて、読み終えてからちゃんとじんとくる。そんな一冊を探しているなら、ぜひ手に取ってみてください。
三好愛 著 / ミシマ社 / 2026年6月
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