この本の基本情報
- 著者:村瀨孝生
- 出版社:ミシマ社
- 発売日:2026年3月
- 定価:1,980円(税込)※定価は変更になる場合があります
どんな本か(3行あらすじ)
著者の村瀨孝生さんは、福岡にある特別養護老人ホーム「宅老所よりあい」の代表を長年務める介護の現場人。本書は、その現場で積み重ねてきた「老い方」をめぐる考察をまとめた一冊です。「老いを受け入れなければならない」という通念を丁寧にほどきながら、「朽ちる」ことを社会や文化の文脈から問い直します。老い・死・衰えをポジティブに語る自己啓発とはまったく異なる、深く静かな思索の書です。
書店員として読んで感じたこと
この本を手に取ったきっかけは、正直に言えば「タイトルの強さ」でした。『朽ちて死ぬ自由』。書店員をしていると、毎日何十冊というタイトルを目にしますが、これほど即座に立ち止まらせるタイトルはそう多くない。「自由」という言葉と「朽ちて死ぬ」という言葉が並んでいることへの違和感と、その違和感そのものが読みたいという衝動に変わる——そういう体験でした。
著者の村瀨孝生さんは、介護施設の代表でありながら、長年にわたって「ぼけと利他」(伊藤亜紗さんとの共著)など思想寄りの語り口で老いや認知症をテーマにしてきた方です。介護の現場にいるからこそ言える言葉の重みが、本書にもずっしりと詰まっています。
本書が他の「老い方本」と大きく異なるのは、「うまく老いる」ことを目指さない点です。昨今の書店には「老後をいかに豊かに過ごすか」という文脈の本が溢れていますが、村瀨さんはそういった発想そのものを問い直します。老いを「管理」しようとすること、「受け入れる」ことを善とすること——その前提にある価値観こそを、丁寧に、しかしはっきりと解体していく。
印象的だったのは、施設の利用者ひとりひとりのエピソードが、統計や理論の「例示」として使われるのではなく、その人自身の物語として語られている点です。村瀨さんの文章には、人への敬意と観察の細やかさが滲んでいて、読んでいると自分が老いることへの恐れがじわじわとほぐれていく感覚がありました。恐れがなくなるのではなく、恐れの輪郭がはっきりすることで、少し楽になれるような。
「老い方研究」というサブタイトルが示す通り、これは完成した答えを提示する本ではなく、問いを一緒に持ち歩くための本です。親の介護を考え始めた方にも、自分自身の老いを意識し始めた方にも、そして「老いとは何か」を哲学的に問いたい方にも届く一冊だと思います。
書店員として言わせてもらえるなら、ミシマ社の本は「棚に置いておくだけで書店の思想が滲む」本が多いのですが、本書もまさにそういう一冊です。うちの棚に入れる理由はタイトルで決まりました。
「この本を読むと、老いが怖くなくなりますか?」と聞いてきたお客様がいました。答えに詰まりました。この本は老いを怖くなくしてくれる本ではないからです。
でも少し考えて、「老いの輪郭がはっきりしてきます」と答えました。漠然とした恐れというのは、形が見えないから怖いのだと思います。村瀨さんの文章は、その漠然とした恐れを丁寧に言語化してくれます。「なぜ私は老いることを恐れているのか」「老いを受け入れることが善だという感覚はどこからきているのか」——そういう問いを手渡されることで、恐れの輪郭が見えてくる。輪郭が見えると、少し落ち着けます。
書店員として言わせてもらうと、これはミシマ社の本の中でも「棚に残し続けたい」一冊です。老い関連の本は特定の季節や話題性で動くことが多いのですが、この本は静かに、必要な人のところへ届き続けています。その売れ方が、本の価値を証明していると思っています。
こんな人に読んでほしい
- 親の老いや介護に漠然とした不安を抱えている方
- 「老い方本」「終活本」に違和感を感じてきた方
- 介護・福祉・医療に携わる方、またはその仕事に関心のある方
- ミシマ社の本や、村瀨孝生さんの思想に関心のある方
- 死や衰えを哲学・思想の文脈で考えてみたい方
関連するおすすめ本3冊
1. ぼけと利他 / 伊藤亜紗・村瀨孝生(ミシマ社)
同じ村瀨孝生さんが伊藤亜紗さんと認知症の「別の見方」を語り合った対談集。本書と合わせて読むと村瀨さんの思想の全体像が見えてくる。
2. ケアの倫理 / ヴァージニア・ヘルド(晃洋書房)
「ケア」を哲学・倫理の観点から論じた海外理論書。村瀨さんの現場知と対比しながら読むと思考が深まる。
3. 逝かない身体 / 川口有美子(医学書院)
ALS患者の母を在宅で看取った著者による記録。老いや死に伴走することの意味を別角度から問う一冊。
書いた人:のこのこ書店スタッフ
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