「犬のうんちとわかりあう」ミシマ社の新刊が予想を裏切る深さだった【書評】

書店員として毎月何十冊もの新刊を手に取っていると、タイトルで「これは絶対に手に取ってもらえる」と直感する本に出会うことがある。ミシマ社から出た『犬のうんちとわかりあう』(ASIN: 491122634X)は、まさにそういう一冊だ。帯を見た瞬間、思わず笑ってしまった。でも読み終えたあとには、笑いの先に確かな余韻が残っていた。

なぜこのタイトルにしたのか

正直に言えば、最初は「また奇を衒ったタイトルか」と思った。書店の棚には毎月、目を引こうとするだけのタイトルの本が並ぶ。しかし本書は違う。「うんち」という言葉をあえて選んだことに、著者のはっきりとした意志がある。

犬を飼ったことがある人なら、散歩中にうんちを拾う場面を思い出すだろう。あの行為には、単なる衛生管理を超えた何かがある——そう著者は問いかける。「わかりあう」という動詞も意味深だ。人間と動物、あるいは人間同士の「わかりあえなさ」を正面から扱う覚悟が、このタイトルには詰まっている。書店員として、このタイトルを選んだ編集者のセンスを純粋に尊敬した。

読んでわかった「うんち」の意味

本書が扱うのは、犬のうんちという具体的な出来事を入口にした、ケアと関係性についての深い考察だ。著者は犬との日常を通じて、「世話をする」ということの本質を問い直す。

うんちを拾うという行為は、相手の「恥ずかしい部分」「隠したい部分」と向き合うことでもある。人間関係においても同じではないか——誰かのみっともない側面を引き受けてはじめて、本当の意味でわかりあえる関係が生まれる。本書のタイトルは、そういった洞察の結晶だったのだ。読みながら何度も「そうか、そういうことか」と膝を打ちたくなる瞬間があった。

文章も読みやすく、難解な哲学用語を振り回すことなく、日常の出来事を丁寧に掘り下げていく。犬を飼っていない人でも、ペットとの関係や人との繋がりを考えるきっかけになる一冊だ。

ミシマ社らしさ全開の一冊

ミシマ社といえば、大手出版社が手を出しにくい「でも誰かが作らなければいけない本」を世に出し続けている出版社だ。京都と東京に拠点を持ち、一冊一冊を丁寧に作ることで知られている。

本書もまさにそのDNAが全開だった。装丁のシンプルさ、紙質の手触り、本文のフォントと行間——すべてが「ゆっくり読んでほしい」というメッセージのように感じられる。ページをめくるたびに、作り手の誠実さが伝わってくる。こういう本を棚に置けることが、書店員として純粋にうれしい。

ミシマ社の既刊が好きな人にとっては、間違いなく「やっぱりミシマ社だ」と感じる一冊になるはずだ。初めてミシマ社の本を読む人にとっても、この出版社の魅力を知る良い入口になる。

こんな人に読んでほしい

書店員として、この本を特に勧めたい人を挙げるとすればこうだ。

まず、犬や猫など動物と暮らしている人。日常の「お世話」を通じて感じてきたことが、言語化されてスッキリする体験があるはずだ。次に、人間関係に少し疲れている人。「わかりあえなさ」と正直に向き合うこの本は、変に励ますことなく、静かに寄り添ってくれる。そして、ミシマ社や独立系出版社の本が好きな人には、本の作りも含めて楽しんでもらえる。

1,000字前後で読める章構成で、読書が久しぶりでも負担なく読み進められる。電車の中で、あるいは休日の午後に、ゆっくりと向き合ってみてほしい一冊だ。

タイトルの奇抜さに惑わされないでほしい。棚の前で手に取って、最初の数ページを読めば、その先を読まずにはいられなくなるはずだ。これが書店員としての正直な感想だ。

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