直木賞発表の夜に読む5冊——本屋のこのこが選ぶ現代小説・エッセイ

今日、7月15日は直木賞の発表日です。

毎年この日、書店の棚が少しだけ違って見える。普段は本を読まない人も「そういえば……」と思い出したように手を伸ばす。文学にとって特別な夜のひとつです。

本屋のこのこは、小説とエッセイだけを扱う小さな本屋です。今日はその仕入れリストの中から、直木賞発表日の夜にぜひ手にとってほしい5冊をご紹介します。受賞作・候補作に限らず、「今の時代に読まれるべき理由がある」という基準でセレクトしました。


01|流浪の月 / 凪良ゆう(東京創元社)

本屋大賞2020受賞。凪良ゆうの名前をこれほど広く知らしめた一冊であり、2022年には松坂桃李・広瀬すず主演で映画化もされた代表作です。

幼いころ、家内更紗は「誘拐犯」の青年・文と過ごした2ヶ月間を、誰にも本当のことを理解してもらえないまま大人になります。そして数年後、二人は再会する——。

世間の目線と、当事者にしかわからない真実。「善意の暴力」がいかに人を傷つけるか。この小説が問いかけるのは「あなたは本当に誰かを理解できていますか?」という静かな問いです。読み終えた後、自分の中にある「正義感」について、しばらく考えさせられます。

ページをめくる手が止まらないのに、読み終えた後は長い余韻の中に置かれる。好きな小説を問われたら迷わず挙げたくなる一冊です。


02|コンビニ人間 / 村田沙耶香(文藝春秋)

芥川賞2016受賞。発売から約10年が経った今も版を重ね、読み継がれ続けている現代文学の名作です。

36歳、未婚、コンビニアルバイト歴18年の恵子。幼いころから「普通の人間」でいることが難しかった彼女にとって、コンビニだけが「正常な存在」でいられる唯一の場所でした。マニュアルさえ守れば、ここでは誰でも「コンビニ店員」として完璧に機能できる。

「普通」とは何か?「社会に適応する」とはどういうことか?この小説が突きつけるのは、私たちが何気なく使っている言葉への違和感です。笑いながら読めるのに、読後は静かに刺さる。コンパクト(約170ページ)なのに鋭利で濃密な傑作です。


03|かがみの孤城 / 辻村深月(ポプラ社)

本屋大賞2018受賞。辻村深月の代表作にして、現代日本の「居場所を失った人のための文学」として語り継がれる一冊。アニメ映画化もされています。

不登校の中学生・こころが、ある日自室の鏡の中の城に迷い込むところから物語は始まります。そこには同じように行き場を失った7人の中学生がいた。「城の中に隠された部屋の鍵を見つけた者は、ひとつだけ願いを叶えてもらえる」——。

中高生が読んでも、かつて学校に馴染めなかった大人が読んでも、等しく響く物語です。最後のページを読んだとき、多くの読者が泣くと言います。それは悲しみではなく、「そうだったのか」という解放の涙だと思います。


04|くもをさがす / 西加奈子(河出書房新社)

本屋大賞2023 ノンフィクション本大賞受賞。『サラバ!』で直木賞を受賞した西加奈子が、カナダで乳がんを宣告されてから、治療・回復を経て再び立ち上がるまでを綴ったエッセイです。

壮絶な闘病体験を描いているのに、この本から漂うのは奇妙なほどの「明るさ」です。抗がん剤治療の副作用、異国での孤独、恐怖——どれも西加奈子の言葉で語られると、ユーモアと愛に満ちた何かへと変わっていく。

「生きること」「体を持って存在すること」の意味を、読んでいる間じゅう感じさせてくれる一冊。読後に空を見上げたくなります。直木賞作家が書いたからこそ宿るリアルな文体で、ノンフィクション嫌いの方にも開きやすい本です。


05|52ヘルツのクジラたち / 町田そのこ(中央公論新社)

本屋大賞2021受賞。家族間のDV・虐待・孤独といった重いテーマを扱いながら、読み終えた後に確かな希望を感じられる小説です。

「世界で最も孤独なクジラ」と呼ばれる、52ヘルツで鳴くクジラがいます。その声は他のクジラには届かない——。大切な人に声が届かず、傷ついてきた女性・貴瑚が故郷の町へ戻ったとき、「アンさん」と呼ばれる少年と出会います。二人の物語が絡み合いながら、互いに「声を聞く」ことの意味を問い直していく。

誰かの声を聞けているか。自分の声は誰かに届いているか。読み終えた後、身近な人のことを考えずにはいられなくなります。


本屋のこのこからひとこと

直木賞の発表は、今夜です。どの作品が選ばれるかは、まだ誰にもわかりません。

でも、文学の面白さは賞の有無には関係ない、とも思っています。今日ご紹介した5冊は、それぞれが「今の時代に読まれるべき理由」を持ち、多くの読者の手を経て生き残ってきた本たちです。

本屋のこのこでは、小説とエッセイを中心に、独立系・小規模出版社の本を積極的に仕入れています。今回ご紹介した5冊については、入荷次第またこちらでご案内します。

今夜、一冊手にとってみてください。


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