くどうれいんという書き手に、初めて出会ったのはSNSでしたか。それとも書店の棚の前でしたか。
岩手県出身の歌人・作家・エッセイスト。1994年生まれ。20代でその名を文芸誌に刻み、今では多くの読者に読み継がれている書き手です。
今回紹介する『うたうおばけ』(書肆侃侃房・2021年)は、くどうれいんが書いたエッセイ集です。日常のこと、食べること、短歌を作ること、友人との時間、東北の風景、恋愛の断片。そういうものが、彼女ならではの言葉と、随所に差し込まれた短歌とともに綴られています。
「おばけ」が「うたう」とはどういうことか
タイトルの「おばけ」は、怪異のことではありません。日常のなかにひっそりと息をしている、名前のつかない感情や、もうかえらない記憶のことです。
誰かと別れた駅のホームの空気。昨日食べたものの、今日になって蘇る味。もう会えない人の声の残像。そういうものが、ある朝突然、歌になって出てくる。それをくどうれいんは「うたうおばけ」と呼んでいるように、私には読めました。
幽霊のように現れては、言葉になって、また消えていく。でもその瞬間だけ、確かに在った。
散文と短歌のあいだで
この本を読んで最初に気づくのは、そのリズムの独特さです。エッセイとして読んでいたと思ったら、短歌が現れる。詩の言語で世界が圧縮されたかと思ったら、また散文が広がっていく。
短歌は31音という極小の器に世界を閉じ込める詩形です。エッセイはその逆に、言葉を広げ、時間をかけて語る形式です。この対照的な二つのジャンルを、くどうれいんは自在に行き来します。
エッセイで十分に語り尽くしたと思ったところに短歌が置かれると、その一首がさっきまでの散文をすっかり塗り替えてしまう。あるいは、短歌一首でぽつんと示されたイメージが、続くエッセイで少しずつほぐされていく。
急がなくていい本です。一篇ずつ、ゆっくり読める。
小さなことを巨大に見る力
くどうれいんの文章が持つ最大の特徴は、「小さなことを巨大に見る」能力だと思います。
コンビニのおでんの匂い。雨の日の、傘がないときの感触。誰かに手紙を書こうとして、書けなかった夜。そういう、取るに足りないような瞬間が、彼女の言葉を通ると、なぜか何年も忘れられないシーンに変わります。
技術というより、視線の問題です。日常をどの角度から、どの距離感で見るか。くどうれいんの視線には、ありふれたものを「初めて見るもの」として発見する力があります。読んでいると、自分の日常も少し違って見えてくる。それがこの書き手の、特別なところです。
書肆侃侃房という出版社
本書を刊行した書肆侃侃房は、福岡に本拠を置く独立系の出版社です。短歌・俳句・詩などの現代詩歌から、文芸作品まで幅広く手がけています。くどうれいんとの相性は抜群で、この本はその証明のようなものです。
大手出版社では出しにくいような、繊細な言語感覚を持つ書き手を丁寧に育ててきた出版社の仕事が、この一冊に詰まっています。
当店で取り扱っているくどうれいんの本
当店では、くどうれいんのエッセイ集『桃を煮るひと』(ミシマ社)を取り扱っています。日常の食と記憶をめぐる、くどうれいんの文章の魅力が凝縮された一冊です。こちらもぜひあわせてお読みください。
『うたうおばけ』(書肆侃侃房)は現在仕入れ手配中です。入荷次第、当店サイトにてお知らせします。
こんな方におすすめ
- 日記や手紙を書くことが好きな方
- 短歌・詩など、短い言葉の形式に興味がある方
- 「言葉にならない感情」を大切にしている方
- くどうれいんをSNSで知って、まだ本を読んでいない方
- 書肆侃侃房・ミシマ社など独立系出版社の本が好きな方
書誌情報
- 書名:うたうおばけ
- 著者:くどうれいん
- 出版社:書肆侃侃房
- 刊行年:2021年
- ISBN:9784863855083(要確認)
- 定価:¥1,650(税込)
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