今日、7月15日は直木賞の発表日です。
受賞作の速報を追いかける夜に、少し違うアプローチをご提案したいと思います。受賞作を手にする前に——あるいは受賞作と一緒に——直木賞・本屋大賞・芥川賞を席巻してきた作家たちが書いた名作を読み返してみませんか。
今回ご紹介するのは、私たちの仕入れリストに入っている5冊。いずれも、直木賞受賞作家(または芥川賞・本屋大賞受賞作家)による、代表的な小説・エッセイです。
1. 流浪の月 / 凪良ゆう(東京創元社)
2020年本屋大賞受賞。2023年直木賞作家・凪良ゆうの、世界を変えた代表作。
幼い頃に伯母の家に預けられ、孤独な日々を送っていた少女・更紗は、ある夜公園で一人の青年・文と出会います。文は更紗を自分のアパートへ連れ帰り、二人はひと夏を共に過ごした。しかしその結末は、世間から「誘拐事件」として記憶されることになります。
15年後、大人になった二人が偶然再会するところから物語は動き出します。「加害者と被害者」「善と悪」という単純な構図では語れない二人の関係性、そして「普通の家族」「普通の幸せ」という社会の眼差しがいかに人の心を傷つけ、真実を歪めるか——凪良ゆうはこのことを、息をのむほど丁寧に描きます。
2023年直木賞受賞作『汝、星のごとく』と合わせて読むと、凪良ゆうという作家の深みがより一層伝わります。直木賞発表日の夜に、まずこの一冊を手に取ってみてください。
2. コンビニ人間 / 村田沙耶香(文藝春秋)
2016年芥川賞受賞。世界18言語に翻訳された、現代日本文学の名作。
36歳・未婚・コンビニアルバイト歴18年の古倉恵子。就職もしない、結婚もしない彼女を心配する家族や友人の言葉は、そのたびに彼女の内側をえぐっていきます。ところが彼女には、コンビニの中にいるときだけ感じられる「正常な歯車としての自分」があります。
「普通」とは誰のためにあるのか。「治る」べき存在とはどういう意味か。120ページあまりの短い物語の中に、現代社会が抱える根本的な問いが凝縮されています。読了後、あなた自身の「普通」への見方がきっと揺らぎます。重くなく読めるのに、読み終えた後はしばらく動けなくなる——そんな本です。
3. かがみの孤城 / 辻村深月(ポプラ社)
2018年本屋大賞受賞。2012年直木賞作家・辻村深月の、集大成とも呼ばれる物語。
ある日突然、部屋の鏡が輝き始め、中学生の少女・こころはその先の異世界の城に迷い込みます。そこには同じように学校に居場所を持てない7人の中学生が集まっていました。狼の面をつけた少女が告げるのは「城の中にある願いの部屋の鍵を見つければ、どんな願いも叶えられる」——。
「学校に行けない」という現代の子どもたちが抱える痛みに真摯に寄り添いながら、圧倒的な謎解きと感動的な結末へと疾走するこの小説は、子どもはもちろん、大人が読んでも深く刺さります。ラストで明かされる伏線の回収は、多くの読者が「声を出して泣いた」と語る場面です。アニメ映画化(2022年)もされましたが、まず小説で読んでほしい一冊です。
4. くもをさがす / 西加奈子(河出書房新社)
2015年直木賞作家・西加奈子によるがん闘病エッセイ。
カナダに滞在中、乳がんと診断された著者が綴った300日間の記録です。言葉の壁がある異国の地で、英語で病名を告げられ、英語で治療を受ける。コロナ禍という状況も重なり、著者は一人でその事実と向き合うことになります。
重い内容でありながら、文章はどこまでも軽やかです。恐怖や怒り、理不尽さを包み隠さず書きながら、それでもユーモアを失わない。読み終えたとき、「今日生きている」ということの意味が、静かにあなたの胸に落ちてくる一冊です。「生きること」を正面から問い直したい夜に。
5. 52ヘルツのクジラたち / 町田そのこ(中央公論新社)
2021年本屋大賞受賞。2023年直木賞作家・町田そのこの代表作。
52ヘルツのクジラとは、他のクジラには届かない特殊な音域で鳴く、孤独なクジラのこと。その存在をモチーフに、誰にも届かない声で叫んでいる人たちの物語が描かれます。
主人公の女性・貴瑚は、虐待と搾取の末に都会から大分の海辺の町へと移り住みます。そこで出会ったのは、声を持てない一人の少年——「ムシ」と呼ばれ、存在を消されたように生きていた子どもでした。二人の出会いから始まるこの物語は、傷ついた人間が互いの声を聞き、生き延びていく姿を温かく描きます。
虐待、ヤングケアラー、孤立……現代の日本が直視すべきテーマを扱いながら、読後感はどこまでも穏やかで力強い。「あなたの声を、ちゃんと聞いている」という物語の温度が、長く胸に残ります。
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この5冊を今夜そばに
直木賞の受賞作が発表されるこの夜に、受賞作家たちが別の作品で残してきた物語もぜひ手に取ってみてください。受賞・非受賞に関わらず、読者の心に刻まれた作品は確かに存在します。
ご紹介した5冊はいずれも当店仕入れリストに入っている作品です。在庫状況・購入については、サイトのお問い合わせよりご連絡ください。
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