「人の役に立ちたい」が、なぜか苦しくなるあなたへ。中島岳志『思いがけず利他』が教えてくれること

「利他的に生きよう」と思ったことはありますか?

人のために尽くし、見返りを求めない。そんな生き方は美しい——でも、実践しようとすると、どこかぎこちなくなる。「してあげる」という意識が頭をもたげた瞬間、なぜか少しだけ息苦しくなる。

中島岳志『思いがけず利他』(ミシマ社)は、そのもやもやに正面から向き合った一冊です。

「利他」は、意図した瞬間に変質する

東京工業大学教授で政治思想研究者の中島岳志さんが、この本で提示するのは意外な結論です。

「利他」は、意識して行おうとした瞬間に変質する。それは「自分が正しいことをしている」という自己満足に化けてしまいかねない。本当の意味での利他は、意図の外側から、思いがけずやってくるものだ——と。

自分が夢中になって何かをしていたら、気づけば誰かの役に立っていた。自分の仕事を精一杯やっていたら、思わぬ形で誰かを救っていた。そういう「思いがけない」経験こそが、利他の本質だというのです。

マルセル・モースの「贈与論」から読み解く

本書の中で中島さんが参照するのは、フランスの社会学者マルセル・モースが提唱した「贈与論」です。贈与とは、単なる「あげる」行為ではない。贈られた側には「お返しをしなければ」という力学が生まれ、社会は循環する。この「返礼の義務」を通じて、人々はつながっていく。

意図した善意は、この循環を壊してしまうことがある。「してあげた」という意識が残るとき、それは贈与ではなく、支配に近くなる。

だから中島さんは言います。「利他」を目的にするのではなく、自分が本当にやりたいことに没入することで、結果として利他が生まれる——それが健全なあり方だと。

こんな人に読んでほしい

  • 「人のために生きたい」と思いながら、消耗してしまっている人
  • 「自分のことだけ考えるのは悪いことだ」と感じて苦しい人
  • ボランティア活動や支援活動で、なんとなくしんどさを感じる人
  • 哲学・思想の入門として、身近なテーマから読み始めたい人

「自分のためにやる」ことを、この本は静かに許可してくれます。その先に、思いがけない「誰かの役に立つ瞬間」が待っている。

著者:中島岳志(なかじま・たけし)

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専門は南アジア地域研究・政治思想。『パール判事』『血盟団事件』『保守と立憲』など政治・思想系の著書多数。左右の二項対立を超えた独自の視点で知られる論客。

のこのこ書店で手に入れる

中島岳志『思いがけず利他』は、のこのこ書店(オンライン)にて在庫あります。「利他」という言葉に何か引っかかりを感じたことがある方に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。