「農継ぎ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
農業を継ぐこと。その2文字のなかに、どれだけの重みと、どれだけの希望が詰まっているか——高橋久美子の『わたしの農継ぎ』は、そのことを静かに、しかしまっすぐに問いかけてくる。
著者・高橋久美子について
高橋久美子は愛媛県生まれの作家・詩人・作詞家。THE BACK HORNやチャットモンチーなど、数多くのアーティストへの楽曲提供で知られる一方、文筆家としても独自の視点と言葉の選び方で支持を集めてきた。
彼女の文章には、歌詞を書く人特有の密度がある。無駄のない言葉の選択、情景を一枚の絵として切り取る感覚——それが農家の現場に向けられたとき、農業ルポルタージュでありながら、詩的なエッセイとしても読める不思議な読み心地を生む。
「農継ぎ」とは何か——日本が抱える、静かな危機
日本の農業は深刻な後継者不足に直面している。
農業従事者の平均年齢は68歳を超え、耕作放棄地は年々広がり続けている。「農継ぎ」とは、血縁や家業の枠を超えて農業を次の世代へと引き継ぐこと——この本が掘り起こそうとしているのは、経済ニュースの統計の裏にある、生きた人間の選択と物語だ。
農業が途絶えるとはどういうことか。それは単に食料生産の問題ではなく、土地と人とのつながり、地域の文化と記憶が途絶えることでもある。
この本が届ける3つの視点
① 農業を継ぐ人の「今」が、生身の言葉でわかる
統計や政策論ではなく、現場にいる人間として農家が描かれる。まったく異なる道から農業へと踏み込んだ人、家業として受け継いだ人、移住して土に向き合い始めた人——それぞれの選択に、リアルな温度と迷いがある。
② 「食べること」の意味が変わる
食卓に並ぶ野菜がどんな土から来て、誰の手と時間で作られたか——それを意識したとき、ごはんの味は変わる。本書は、日常のなかの「食」を問い直す入り口になる。農業を「自分と関係のない産業」ではなく、「自分の食べること」と直接つながったものとして再発見させてくれる。
③ 地方移住・農業に関心がある人の「現場感覚」になる
移住や就農を漠然と考えている人にとっては、夢や理想だけではない現実のイメージが掴める一冊。美化されすぎず、否定もされすぎない、真ん中の現場感覚——それを作詞家の耳と目で切り取った記録が、この本だ。
作詞家だからこそ聴き取れた、農の声
農業の現場は、ドラマチックである必要はない。
泥臭く、静かで、繰り返しの多い日々のなかにある美しさと困難。高橋久美子の言葉はそこに光を当てる。インタビューで誰かが発した言葉の選び方、土に向き合う手の描写——それを「聴く耳」で受け取り、文字として届ける。その技術は、歌詞を書いてきた人の仕事だ。
農業というテーマでありながら、読後に残るのは農業の知識よりも、「誰かと土地をつなぐことの、静かな尊さ」のような感覚かもしれない。
こんな人に読んでほしい
- 農業・食・地方に関心がある人
- 地方移住を考えている、または考えたことがある人
- 高橋久美子の文章・歌詞が好きな人
- エッセイ・ルポルタージュが好きな人
- 「働くこと」「生きること」の意味を問い直したい人
- 都市と農村のあいだで、何か答えを探している人
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『わたしの農継ぎ』は現在のこのこ書店に在庫があります。
農業が「誰かの仕事」から「自分の食べること」に変わる、そんな一冊を手に取ってみてください。本を読んで、農業が少し身近になったなら——それはもう、あなた自身の「農継ぎ」の始まりかもしれません。
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