この本の基本情報
- 著者:伊藤亜紗・村瀨孝生
- 出版社:ミシマ社
- 発売日:2021年11月(ロングセラー)
- 定価:1,650円(税込)※定価は変更になる場合があります
どんな本か(3行あらすじ)
美学者の伊藤亜紗さんと、介護施設「宅老所よりあい」代表の村瀨孝生さんによる対談集です。「ぼけ(認知症)」を”何かが失われた状態”ではなく、”利他が生まれやすい余白の状態”として捉え直すという、これまでにない視点を提示します。2021年刊行のロングセラーであり、認知症をめぐる語り方そのものを更新した一冊として、いまも各地の書店員に支持されています。
書店員として読んで感じたこと
本書を最初に棚に並べたのは2021年の刊行直後のことでした。それからずっと切らさずに置いています。お客さんに「認知症の家族がいて……」とご相談を受けたとき、いちばん最初に手渡したくなる本のひとつです。
なぜか。それは、この本が「認知症への対処法」を教えてくれる本ではないからです。
認知症に関する本は、書店にたくさん並んでいます。「早期発見のサイン」「介護の手順」「家族のメンタルケア」——どれも必要な情報で、それぞれの本に意義があります。でも本書が問うのは、もっと手前のところ、つまり「私たちは認知症をどう見ているか」という前提そのものです。
伊藤亜紗さんは東京工業大学の美学者で、障害や身体をテーマにした研究で知られています。「手の倫理」「記憶する体」など、身体・感覚をめぐる著作が読み継がれている方です。村瀨孝生さんは福岡で長年、重度の認知症のある高齢者と向き合ってきた介護の現場人。この二人が「ぼけ」と「利他」という二つのキーワードをめぐって語り合ったのが本書です。
対談の中で特に印象的だったのは、「ぼけた人は利他的になりやすい」という逆説的な指摘です。認知症が進むと、「自分」と「他者」の境界が曖昧になってくる。一般的にはそれを「自己が失われる」と表現しますが、伊藤さんと村瀨さんはそれを別の角度から見直します。自己の境界が緩むからこそ、他者の痛みや喜びへの感度が上がるのではないか、と。「ぼけ」は欠如ではなく、ある種の「余白」なのかもしれない——この視点が、読みながらじんわりと心に染み込んでいきました。
書店員として正直に言うと、ミシマ社の本は「ちゃんと売れる」本です。それは単に話題性や著者知名度だけでなく、手に取ったお客さんが「この本で良かった」と感じてくれることが多いから。本書も、購入されたお客さんから「親への見方が変わった」「介護が少し楽になった気がする」という声を複数いただいています。
認知症 本 書店員おすすめ、と検索してこのページに辿り着いた方にこそ、まず読んでほしい一冊です。答えをくれる本ではなく、問いの立て方を変えてくれる本——そういう本が、長く手元に残ると思っています。
私がこの本を最も手渡してきたのは、「親の認知症が進んでいて、どうしていいか分からなくなった」というお客様でした。答えを探して来た方に対して、この本は答えを渡しません。でも、そのお客様の多くが後日また来店してくださいます。「また読み返したくて」と言いながら。
長年書店で本を扱っていると、何度も読まれる本には共通点があると気づきます。「何かを解決してくれる本」より、「一緒に考えてくれる本」のほうが、手元に残ります。本書は、認知症の現場で何年も向き合ってきた村瀨さんと、美学という言葉で身体と意識の境界を問い続けてきた伊藤さんが、読者を一緒に考えることに誘ってくれる一冊です。その誘いに乗ることで、「どうしていいか分からない」がすこしだけ、「一緒にいていい」に変わっていく——そんな感覚が、読み終えたときにありました。「認知症 本 書店員おすすめ」と検索してたどり着いた方に、特に届いてほしいと思っています。
こんな人に読んでほしい
- 認知症の家族を持つ方、または介護をしている方
- 「認知症=失う」という見方に息苦しさを感じている方
- 伊藤亜紗さんの著作(「手の倫理」「記憶する体」など)が好きな方
- 福祉・医療・介護に関わる職種の方
- 老い・死・ケアを思想・哲学の文脈で考えたい方
関連するおすすめ本3冊
1. 朽ちて死ぬ自由 僕の老い方研究 / 村瀨孝生(ミシマ社)
本書の村瀨孝生さんによる単著。「ぼけと利他」と合わせて読むことで、村瀨さんの老いへの思想が立体的に見えてくる。
2. 記憶する体 / 伊藤亜紗(春秋社)
本書の伊藤亜紗さんによる著作。脳や身体の「記憶」を哲学・美学の観点から論じる。「ぼけと利他」の伊藤さんの発想がどこから来るのかが分かる。
3. 痴呆を生きるということ / 小澤勲(岩波新書)
精神科医による認知症の古典的名著。「ぼけと利他」の視点の先駆けとも言える一冊で、認知症を「その人の主体性」から見直す視点がある。
書いた人:のこのこ書店スタッフ
