御年90歳、作家・阿刀田高さんが綴るエッセイ集『90歳、男のひとり暮らし』が、この度5刷目の重版を決定し、累計2万7千部を突破する快挙を達成しました。長年連れ添った奥様が介護施設に入居されて以来、自宅で単身生活を送る阿刀田さん。そんな彼が「何事も“まあまあ”ならそれでいい」「老いてこそユーモア」をモットーに、日々を機嫌よく、そして軽やかに生きる秘訣を明かした本書は、多くの読者に「こんな老後を迎えたい」「肩の力が抜けた」と共感を呼んでいます。
「まあまあでOK」の哲学が示す、心豊かな老後の過ごし方
現代社会は、とかく完璧を求めがちです。特に高齢になると、体の自由が利かなくなったり、新しいことを始めるのが億劫になったりして、理想と現実のギャップに苦しむことも少なくありません。しかし、阿刀田高さんは、そんな老いの現実を真正面から受け止め、「まあまあでOK」という温かい眼差しで向き合います。
本書には、90歳の阿刀田さんが実際に体験し、実践している「まあまあ」な日常が、ユーモアを交えながら綴られています。例えば、
- 朝は鏡で自分の顔を点検し、ちょっとした変化を楽しむ。
- 料理は手抜きで栄養を確保し、完璧を目指さない。
- 通信販売で失敗しても、それもまた一興と笑い飛ばす。
- 眠れぬ夜は源氏物語や百人一首を心の中で数え、静かに時間を過ごす。
- 時に妻や亡き人々を想い、過去の記憶を慈しむ。
これらは、決して特別なことではありません。むしろ、誰もが経験しうる、ごく日常的な出来事です。しかし、阿刀田さんのフィルターを通すと、それら一つ一つが愛おしく、人生の滋味として輝き出すのです。完璧を求めない「まあまあ」の精神は、私たちに「これでいいんだ」という安心感を与え、心の重荷をそっと下ろしてくれることでしょう。
90年積み重ねた知恵とユーモアが満載
阿刀田高さんといえば、生涯900篇以上の短編小説を執筆し、直木賞や吉川英治文学賞など数々の文学賞を受賞した日本を代表する作家です。また、『ギリシア神話を知っていますか』などの「知っていますか」シリーズで、やさしく古典を伝えることでも広く知られています。そんな博識な作家が90年の人生で培ってきた知恵と経験が、本書には惜しみなく凝縮されています。
衣食住の工夫から、趣味や教養の楽しみ方、そして人とのつながりや、老いと死生観まで、多岐にわたるテーマが軽妙な筆致で描かれています。特に印象的なのは、「落語を“読んで”楽しむ」という独自のスタイル。耳で聞くのではなく、活字で落語の世界を想像する楽しみは、阿刀田さんならではの知的遊戯と言えるでしょう。また、「老いてこそユーモア」という言葉通り、自らの老いを客観的に、そして時に滑稽に描写する姿勢には、人生の達人としての風格が漂います。
目次から垣間見る、人生の豊かさ
本書の目次を紐解くだけでも、その内容の豊かさが伝わってきます。
- 九十歳
- 手料理いたします
- 駄目駄目ショッピング
- 税金とのつきあい
- 落語を読んでいます
- 老いて漢字もいい感じ
- 面白い読書を知っていますか
- 老いてこそユーモア
- 奥歯の痛み ありがとう
- 海馬が勝手に動くのかも
- 五官の成績簿を考える
- 些細なれども日常の＋と-
- 夢の行方を訪ねて
- 人生いろいろ 老爺もいろいろ
- 会いたいなあ、あの人に
- あとは無となれ墓はなし
- 月がとっても偉いから
- 最期の「ありがとう」
日々の暮らしの具体的な話から、内面的な考察、そして人生の終焉にまで思いを馳せる深遠なテーマまで、まさに90年の人生を凝縮したような目次構成です。一つ一つの項目が、私たち自身の生き方や考え方について、深く問いかけるきっかけを与えてくれます。
93歳の黒井千次さんとの対談も必読！
さらに話題を呼んでいるのが、阿刀田さんと高校時代の先輩後輩であり、70年来の親交がある93歳の作家・黒井千次さんとの対談です。文学の世界を共に歩んできたお二人が、90代をどう生き、老いとどう向き合っているのか。その対談記事では、「洋服の着脱が遅い、浴槽からでられない…」といった具体的な老いの現実から、作家としての矜持まで、赤裸々に語られています。
この対談とエッセイ集を合わせて読むことで、高齢作家たちの等身大の姿と、彼らが紡ぎ出す言葉の重みをより深く感じることができるでしょう。先人たちの知恵から、私たちはきっと、来るべき老後のヒントや、今をより豊かに生きるための力を得られるはずです。
阿刀田高という稀有な存在
1935年東京生まれの阿刀田高さんは、早稲田大学文学部を卒業後、国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続けました。1978年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビューして以来、その独特のユーモアと洞察力に富んだ作品は多くの読者を魅了。紫綬褒章や旭日中綬章の受章、そして2018年には文化功労者に選出されるなど、文学界に多大な貢献をしてきました。
『90歳、男のひとり暮らし』は、そんな偉大な作家が、人生の最終章を軽やかに、そして心豊かに生きる姿を映し出した、まさに集大成ともいえる一冊です。老いを受け入れながらも前向きに、そして何より「機嫌よく」生きる阿刀田さんの姿勢は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。
まとめ：人生を「まあまあ」で彩る勇気をあなたへ
90歳でひとり暮らし、と聞くと、孤独や不安を想像するかもしれません。しかし、阿刀田高さんのエッセイは、そんな固定観念を軽やかに打ち破ってくれます。「まあまあでOK」という言葉には、完璧でなくてもいい、自分らしく生きていいんだ、という温かいメッセージが込められています。この本は、高齢者の方々にはもちろんのこと、これから老いを迎えるすべての人、そして人生を肩肘張らずに生きたいと願うすべての人にとって、心強い羅針盤となるでしょう。
日々のささやかな喜びや、人生の深みを再認識させてくれる滋味豊かな本書を、ぜひこの機会にご一読ください。きっとあなたの人生観に、穏やかながらも確かな変化をもたらしてくれるはずです。
書籍情報：
【タイトル】90歳、男のひとり暮らし
【著者名】阿刀田高
【発売日】9月25日
【造本】 四六判ソフトカバー（新潮選書）
【定価】1,870円（税込）
【ISBN】978-4-10-603935-5
【URL】 https://www.shinchosha.co.jp/book/603935/
引用元：https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002508.000047877.html
